夏らしいことは、最早出来ぬと思っていた。
鹿児島で夏を満喫するという計画は出鼻からぽきりと挫かれていたし、夏季休暇の前半は台風にしてやられ、後半の予定も積極的には立てられずにいたから。
だが、捨てる神あれば拾う神あり、絶望のままに夏を終えようとしていた私をばたこさんが救い出してくれた。
もともと別日でお願いしていた撮影を早めてもらえないかと、ダメ元でお願いしたところ快くOKしていただいたのだ。
メインの撮影地は由比ヶ浜と決めていたが、海ばかりでは面白くないので、鎌倉駅から海岸までの道のりをぽつりぽつりと撮りながら歩いてゆく。
影で遊んだり小径に入ったり、歩道橋を何回も登り降りさせたり、全くばたこさんには申し訳ないことではあるけれど、私は実に愉しい。
そうやって撮りながら海に着く頃には、ようやく太陽が山に隠れようとしており、まさに撮り頃だった。
早速波打ち際に駆け寄って、此処を先途とシャッターを切ってゆく。
準備の悪い私は靴を履いていたから、最初海に突入することを躊躇していたけれど、ばたこさんが率先してサンダルもスカートも濡らしてくれているのに、いつまでもそうしているわけにもいかない。
意を決した私は、靴のまま海に突入した。
せめて靴と靴下を脱いで入れば良かったのに、その時は全く思い及ばなかった。
それでも、30を超えたいい大人が靴のまま海に入ってはしゃぐという行為はそのくだらなさそのものが実に愉快で、当時の心情はばたこさんを通じて写真に反映されていると思う。
以上が、私の今年の夏の全てである。
僅かな時間ではあったけれど、私に愉快な夏の想い出を与えてくれたばたこさんには大いに感謝している。
ー撮影後記ー
この日はcinestill400と800を使った。
海に向かう道中と日没前の海の写真では400を使っていて、日没後の海では800を使っている。
この日は実に蒸し暑く、潮風と湿気で肌がベタついて不快だったのだが、その厄介な湿度も写し出してくれているような気がする。
ニュアンスで生きているようなズマールとの相性が実は良いのかもしれない。
少しお高いから、ポートレートでしか使えないのが玉に瑕ではあるが。