一昨日、京都での出来事である。
豪雨で増水した鴨川を橋の上から覗き込んでいると、大きな蛇が流されてきた。
最初は木の棒でも流れているのかと思っていたが、よくよく見ればそれは2mはあろうかと思われる蛇で、必死に岸に辿り着こうと巨体をくねらせていた。
少しずつ岸に近づいてきたその蛇は、ちょうど私がいた橋の手前で辛くも上陸を果たした。
泳ぎが全く出来ない私からすれば、心から拍手を送りたくなるような力泳だった。
流石に疲れていたのだろう、上陸後は随分と長い時間川縁で休んでいて、その後ゆっくりと直ぐ近くの茂みに消えていった。
ひとつの命が救われた瞬間に立ち会えたことは非常に悦ばしいのだが、今後あの蛇に待ち受ける運命を思うと、暗澹たる気持ちになってしまうことも否めない。
人間に見つかって、殺されてしまわないだろうか。
殺されなくたって、こんな都会の真ん中で、あの巨体を維持するだけの餌を獲ることがだろうか。
仲間と合流したり、子孫を残す為の新しいパートナーに出会ったりすることが出来るだろうか。
存在しない未来について彼是思い悩むのは人間だけに許された傲慢だろうから、あの蛇は今のこの時も一瞬一蹴を生きているのだろうけれど、それでも何となく考えてしまうのだ。
蛇に幸あれとは妙な物言いだが、今はどうしてもそう言わざるを得ない気持ちにさせられている。