叢草雑記-

徒然なる日々を。わたくしを定義することはやめた。

正統な不貞寝


好きだった、その人の結婚式に出席したのは、私が期間工になる前、ちょうど前職を辞める直前だった。


その人とは同期入社だったけれど、職場は離れていたし、最初は何の接点もなかった。


何かの用事で社内のメール便をやり取りしていたとき、ちょっとしたメモをその人が入れてくれたことがきっかけで、少し仲良くなった。


共通の友人と一緒に釣りに行ったり、ふたりで食事に行ったりして、LINEのやりとりもした、時には電話で話をすることもあって、私は本当にその人が好きになっていた。


告白は電話で、したような気がする。


でも、好いたり好かれたりという関係にはなれないと言われた。 


私は、好いてしまった人と無心で会えるほど出来た人間ではないので、そのあと当然のように疎遠になってしまった。


そのまま終わってしまえば、いつもの失恋話だったのに、少し経った頃、その人とまたLINEのやりとりをしたことがいけなかった。


叶えられもしない大いなる期待を持ってやりとりをした。


私が精神的に弱っていたときで、その人もそういう時期があったから慰めたかったという、ただの優しさだったのに。


そして、お互いに恋人の有無を尋ね合うぐらいの軽口は、平気で言い合える仲だったのに。


私は舞い上がって、舞い上がったぶん、結果が得られなかったとき、全く参ってしまって、その人のことがどうにも心から離れなくなってしまった。


その人から結婚式の招待状が届いたときは、私の独り相撲の哀しさに、さすがに笑ってしまった。


ただ、出席することは迷わなかった。


それは、もはやその人にとって私は意識されるべき人ではないということがはっきりと分かったからであり、そうである以上、私もその人を意識するべきではないと思ったからだ。


ちゃんとお祝いして、終わったあと不貞寝をした。


three-pieceのスーツを着込んだ男が、公園のベンチに横になって不貞寝をした。


これ以上ない、正統な不貞寝だったと思う。



 





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