叢草雑記-

徒然なる日々を。わたくしを定義することはやめた。

境地


曜日忘れて月が太つてゐる


10年ほど前に、私が詠んだ句である。

私が新卒で入った職場は、新人研修で馬鈴薯掘りを1週間ぐらいやらされるのだが、作業を終えてへとへとになった時不意に見上げた空に、明らかに以前より太った月が浮かんでいた。

曜日を忘れるほどに一生懸命働いて、ふと見上げた空に浮かんでいた月の美しさと、人間が定めた暦に縛られることなく進んでゆく自然の移り変わりを詠んだものだ。

当時は自由律俳句に嵌っていて、尾崎放哉とか、種田山頭火とかの句集を読み漁って、私自身も下手くそながら相当数の数を詠んでいた。

詩をやる知人と、デパートの一角を借りて個展をやったのも今では遠い思い出である。

あの頃は何も恐ろしくなかったといえば実に古臭い台詞になってしまうが、まさにその通りで、私の行動が誰にどう思われるのかということは考えもしなかった。

もともと、大学生の頃から、勉学に打ちこむでも無く、バイトに勤しむでも無く、インターンシップと称して田舎で暮らしたり、武士の手習をやったり、そうでもなければ只管本を読んだりしていた。

周りには同じような人間しかいなかったし、私の行動を面白がってくれる人ばかりだったから、私の鼻っ柱が強くなるのも当然である。

社会人になってからはそうとばかりもいかず、私とは違う種類の人間ばかりに出会うし、色々愉快ではない出来事も沢山起こるし、どうも鬱屈した気分で今まで過ごしてきた。

あの頃は愉しかったと懐かしむのは簡単だが、今の生活を愉快なものにする為に、もう少し頑張ってみようと、この句を思い出すと当時の境地に立ち戻れるような気がしている。